ヒューマンキャピタル2019開催レポート
“眠った3割のパフォーマンス”引き出し術
~ブレークタイム篇〜
2019年5月30日、ヒューマンキャピタル2019のセミナーの一コマにオフィスポプロデューサーの奥村が登壇しました。オフィスポは11の企業やブランドが異業種横断で働き方改革の新しいソリューションを提案していくFrom Playersに参画しており、その参画メンバーであるITOKIの高原さんがファシリテーターとなり、Campus for Hの西本さん、タニタヘルスリンクの金子さんとともに、生産性を向上させるための「ブレークタイム」について語り合いました。その内容をレポートします。
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皆さんは、最近1カ月間の自分の仕事を振り返った時、どのくらいの能力を発揮できたと感じますか?私たちの調査によると、日本のビジネスパーソンは、平均すると約7割程度の能力しか発揮できていないと感じています。つまり3割のパフォーマンスは眠っている、というのが多くの日本人の実情のようです。
「ブレークタイム」、いわゆる「休憩」を仕事中にとるかとらないかで、うつ病の発症率とも相関があることがわかっており、仕事中に休憩する時間がほとんど無い人は、うつ病の発症率が1.8倍に増加し、さらにはパフォーマンスが発揮できていないと感じる人の割合が1.6倍に増加するとあります。
ブレークタイムとは、自分のコンディションを整えてパフォーマンスを高める為のひとつのビジネススキルです。
ブレークタイムの取り方:その①
夢中を呼ぶポジティブなサイクル
奥村:僕は、最近改めて学び直すようになった水泳と英語によって、『夢中になって頭が真っ白になる瞬間を経験して上達することで、さらに頭を真っ白にする瞬間を体感したい欲求が生まれ、また夢中になる』という習慣ができました。いわゆる仕事と仕事の間にある夢中になれるブレークタイムです。すると、仕事の中にも同じ事が起こります。ブレークタイムで上達するという事を体感しているので、仕事も上達したいという欲求が生まれてきます。仕事と仕事の間のブレークタイムで夢中を呼び、その夢中を仕事に持ち帰って仕事でもポジティブにはたらくというサイクルを作っている『夢中が夢中を呼ぶ夢中の連鎖』が、僕のブレークタイムです。
ブレークタイムの取り方:その②
主体的にとる自分の時間
西本:僕は、休む習慣として2つの事を行っています。1つは水を意識的に飲むことです。水をとると、肩が凝りにくくなったり、足がつりにくくなったりするといわれますが、それ以外にお手洗いが近くなります(笑)。あえて水をとって、お手洗いが近くなるようにして、それをきっかけとして、仕事の場を離れるようにすることで、自分の時間やブレークタイムが定期的にとれるようにしています。もう一つは、移動中に瞑想のような事をしています。具体的には移動中に自分の眼の奥の感覚に意識を向けてみたりしています。すると、周囲は雑多な電車内の時間でも、ひとつの感覚に意識を集中することで、余計な刺激から離れたブレークタイムがすごせます。
ブレークタイムの取り方:その③
自分のからだのコンディションを整える
金子:私からは、三つほどブレークタイムの取り方についてご紹介したいと思います。タニタヘルスリンクでは、「タニタ健康プログラム」と呼ばれる、企業や自治体向けの健康増進サービスを提供していて、自社内でも社員向けに実施しているのでそれに関することです。一つ目は、社内の飲み物にもこだわっているということです。ポリフェノールの一種である「クロロゲン酸」が通常のコーヒーの約2倍入っているタニタコーヒーを毎日飲んでいます。二つ目は、社内で昼休みにエキスパンダーを使用してエクササイズをしています。これを5分程度行うことで気分転換になり、午後からの仕事に集中できるという実感をもっています。三つ目は、歩数や体組成、血圧データを確認して、自分のからだの状態をチェックしながらコンディションを整えて仕事をしています。
―職場でブレークタイムを取り入れる上で大切なことは?
奥村:皆さんは呼吸を普段、どのくらいの時間でされていますか?呼吸は、どれだけ深くできるか、また吐くタイミングもとても大事であるとされています。このような呼吸も小さなブレークタイムの一つですが、ブレークタイムはどのようなものをとっているか?と尋ねた時、一般的なのはコーヒー紅茶を飲む、間食をとる、昼寝をする、タバコを吸うといったものが出てきます。一方で、運動や体操といったものは、まだまだ取り入れられていません。呼吸は人間の運動の根本なのですが、実は、運動が脳を活性化させるということが近年研究され実証されはじめています。一般的によく言われる健康経営の中では、運動は「身体」に良いという方程式ですが、もう一つキーポイントになるのは、運動は「脳」にも良い。運動は、頭にも心にも身体にも良いということです。今後知的産業が増えていき、より良いアイデア創出が課題とした時、運動をオフィスのブレークタイムにする事は有効であると思っています。
日常的にやった事の無い動作で全身に刺激を与えることは、好奇心や新たな刺激を生んだり、運動を介して相手を理解しあう・思いやるといった事が可能になります。このようなきっかけを何かしら与えてあげることで、習慣が変わるチャンスになるのではないかと考えています。そして大切なのは、「一度やってみたい」「おもしろい」「楽しい」「夢中になれる」という参加者モチベーションを如何に保ち続けられるか、が大きなカギとなります。
西本:ブレークタイムには色々なレベルがあります。『ミクロレベル』=仕事中の休息、『メゾレベル』=毎日または毎週の休息、『マクロレベル』=年間レベルの休息、があります。この休息の時間に何をするのか、という事になりますが、まずは色々な時間のすごし方について、それを考える軸をご紹介します。
縦軸は、ひとりで過ごすか、みんなで過ごすかという軸です。横軸は、頭の中で何かをしようという目的があるDoingモードと、今いる空間の中でプロセスを楽しむ(なしとげるべき目的を持たない)Beingモードとなっています。目的があってみんなで行う(図左下)というのが近年の日常の職場です。こうした時間の過ごし方の強度が強まったことで、対照的に最近ブレークタイムとして注目され始めているのが、この対角にある「ひとりで目的の無い状態(図右上)」。たとえば、マインドフルネスという、禅や呼吸法のようなものですが、自分の内面に向きながら、しかしそこに目的を持たないという過ごし方に関心が集まっています。散歩やトイレや移動中といった状況は、古くからアイデアが沸きやすい状態と言われていましたが、改めてこのような時間を意識的にとる必要があるのではないかと思います。また、ひとりで目的をもって過ごす(図左上)時間の使い方も最近注目を集めています。定型的な作業などは、周りに人が居た方がはかどることが知られていますが、一方で困難な課題に取り組むときには、Deep Thinkが良いと考えられるためです。たとえば、一度、集中して考える時間を持とうとするときや、何か構想をまとめる作業をしようとするときには、周りに人が居ないほうがいいと言われます。このように過ごし方を振り返るための軸をもつと、自分が普段どのような過ごし方をしているのか。仕事の場面で、あるいはブレークタイムでの過ごし方が整理され、意識しやすくなります。これからのブレークタイムの過ごし方として、どんな時間を増やしたいか。こうした過ごし方のバランスから考えるのも一つの方法です。ただし、増やしたい過ごし方がわかっても、何もしなければ、そうした時間は簡単には増えてくれません。そのときに役立つのが『キーストーン』という、習慣の中で鍵となるようなきっかけをつくっていく方法です。例えば離席のきっかけになるように水を飲むなど、そうしたことがキーストーンになってきます。一方こうした、「ねらった過ごし方につながるような小さなきっかけ」をみつけることは、はじめはむずかしいかもしれません。そのような場合、まずは、自分が幸せになれる過ごし方をごほうびとして優先的に予定を入れるということから、習慣作りをしてみてもいいかもしれません。具体的には、水泳や英語の時間を優先的に予定に入れておくということです。こうしたきっかけづくりをしていくと、過ごし方が変わりやすくなり、Well-beingといった幸福感や心地よい状態が高まっていくといった事が調査から出てきはじめています。
金子:基本的に、タニタヘルスリンクにおいては、昼食を食べないという選択肢はありません。3食食べてパフォーマンスを上げていきましょうというのが基本です。規則正しい食習慣や、よく噛んで脳に刺激を送りパフォーマンス向上を目指しましょうということを言っています。プレーヤー目線でブレークタイムを考えた時に大事だなと思う事が二つあります。一つは仕事を忘れられるという事。気分転換をすることで、ブレークタイム後の仕事もはかどります。もう一つは、ブレークタイムの選択肢が豊富である事。エクササイズであったり仮眠室であったり。職場にはブレークタイムを自身で上手にとれる方とそうではない方がいますので、上手にとれない方は、そういった様々な環境があればそれを生かしながらブレークタイムを過ごすことでパフォーマンスがあがるのではないかと思います。
―パフォーマンスを高めるための職場のブレークタイム術とは
ブレークタイムは、その人自身のスキルです。ゆえに、ブレークタイムをとれるかとれないかというのは、人によってレベル差があります。
・初級:昼休みさえ、仕事をしている全く無頓着な人
・中級:会社から与えられた機会を有効に活用できる人
・上級:自ら必要なブレークタイムをデザインし、実践できる人
まず昼休みさえも仕事をしてしまう初級の人たちがブレークタイムをとるためには、「仕事が片付く」という部分はそのままに、「昼休みに仕事をする」から昼休みを仕事がはかどる為のブレークタイムにするという事が、職場の中で初級者を動かす為の重要なアクションになります。
キーワードとしては、あえて目的のない行動をする、仕事から頭を離す、脳を刺激する、楽しいと思える、といった活動をすることで、仕事の効率・パフォーマンスを高めていけるのではないかと思っています。また、会社はただ単純に休憩をとりましょうといっても、職場の人たちは動きません。レベルにあわせたブレークタイムの設計が必要です。
・初級者:イベントや運用ルールなど集団としての取り組みといった機会による報酬体験を提供
・中級者:運動や仮眠、マインドフルネスが行えるような場や制度など、きっかけとなる選択肢を提供
・上級者:働く時間や場の自由度を提供
注意しなければいけないのは、上級者向けの自由度から与えないことです。このように段階にあわせた施策をすることで、ブレークタイムを積極的に活用する職場づくりが出来るのではないかと考えています。そしてブレークタイムは自分に報酬を感じやすく習慣を変えやすい行動の一つです。休憩がとれるようになれば、「キーストーンハビット」として働き方全体にも意識が向くきっかけになり変わっていくのではないかと思います。
このような休憩のスキルを磨くことを、皆さん実践してみてはいかがでしょうか。