エベレスト踏破。一呼吸90mの潜水。
限界を超えるために共通した
自分との付き合い方術とは?
(後編)
エベレストを誰でも登れる時代が来るかもしれない。
山田
人類がどのくらいまで深く今後潜れるんだろうっていう感覚ってあるんですか?
僕らは8848m以上はないので、なんかまぁ冗談で9000mの山あったら登れるのかな、とか、10000mの山があったら登れるのかなみたいな話するんですけど、青天井、と逆か・・・あるわけじゃないですか。
岡本
まだまだ下ありますからね・・・
山田
僕やっぱりアスリートとしてというか、、、、登山家として何が一番評価されるかというと、やっぱり未踏ルートだったり、いままでやったことがないことをやることだったりとか、できないっていう風に思われていることをやることだと思うんですよね。
そういうことでいうと、田部井淳子さんが登ったころっていうのは、女性はエベレストは登れないっていう医者がいたくらいの世界のときにそれを打ち破って登ったっていうすごさがあったんです。深さってどこまでいけるんですか?
岡本
深さは誰もわかんないと思います。まだいけると思いますが、きっと。まだlここで限界っていうような限界は出てないです。ただ、体のリスクがすごく大きすぎてフリーダイビングっていういろいろな種目があって、ジャックマイヨールさんが映画でモデルになったノーリミッツっていう種目が一番深く潜れる種目なんですけど、おもりで落ちて風船であがってくる。それで今はもう200mくらいまでハーバードニッキっていう選手が。素潜りで。なんだけど、気圧勝負になっちゃったんですよ。なので、耳抜きのテクニックとか体力とか低酸素体制とかはトレーニングでどんどん伸ばせたとしても人の体として圧にどんだけ耐えれるのか、っていう面が出てくると思うんですよね。
山田
そういう意味で、山の世界っていうのもエベレストまで酸素ボンベなくても登れているし、それこそ体に障害持った人たちも登ったりしているので、割とそういう意味では海よりだいぶ解明されているんですよね。人類として酸素ボンベなくても登れる場所だってことは、過去何人もやってる。それはハードルが高いか低いかといえばすごく高いんですけど、それは人類としては初ではないし、スキル的にはいくつかルートとしてまだ残っているところはあるんですけど、シンプルに高さっていう意味でいうと解消されちゃったっていうのはあるんですよね。これ以上地殻変動でものすごい高い山が出てこない限り。
岡本
そうかぁ、これから誰もいったことのないところとかを探す方が難しいってことですかね。
山田
そういう意味で、冒険・探検の世界っていうのが特殊じゃなくなるんじゃないか、って思っていて、僕はエベレストが誰でも登れる世界になるんだろうと思ってるんですね。やっぱり人類初のことをやって、その世界がどういう風にやればいけるかっていうハウツーの部分だったり、どういうリスクがあるかっていうのがもっと知見として溜まってくればもっと危険がなくいろんな人がチャレンジできる世界になるし、そういう世界は悪くないな、って思うんです。もっといろんな人に登ってもらいたいと思っているし、単純に競技者が増えることですよね。まぁ、この登山の世界の目指すべき姿、目指したい姿なのかもしれませんね。
山も海も。もっともっと体験してほしい。
競技者というか、登山者が増えて欲しいというのはありますか?
山田
やっぱり自分がそこで育ててもらったってところかな。自分自身が山の中で学んできたこと、得てきたこと、経験させてもらってきたことっていうのは、自分が能動的に何かしたというよりは自然から与えてもらったってことを、もっと多くの人に経験してもらいたい、という思いが強いですね。やっぱり自然と離れすぎてるよね、今の社会が・・・笑
もっと潜ってもらいたいってあるんですか?
岡本
ありますね。今伝えている、伝える仕事もしているので、スポーツとしては競技人口を増やしてフリーダイビング競技を盛り上げたいという気持ちももちろんあります。わたしもともと泳げなかったんです。海もあまり好きじゃなかったんです。首から上濡らしたくない、っていう海水浴ばっかりしていて(笑)ただあるイルカと泳ぐっていう体験をして、フリーダイビングと出会って、ほんと30過ぎても新しい世界が広がる可能性っていうことと、足元にもすごい宇宙みたいな壮大な自然があって、自分次第でそれが出会うことができるし、スポーツを通して成長するっていうのが何歳になっても味わえるじゃないですか。私はそのおかげで成長もできたし得るものもあったから、そういう経験・きっかけをなんかこう望む人には体験してもらいたい。いまはまだストイックなイメージがあるんですよ、フリーダイビイングって。
山田
ありますね。たぶん、登山家もそんな感じだと思いますけど。でも山以上にあるんじゃないかな。山は裾野部分のハイキングだったり。エベレストと高尾山はイメージとしてつながってないかもしれないけど、やっぱりあるので。ちょっと今週末フリーダイビングいかない?みたいなのはないですよね(笑)
岡本
最初にフリーダイビングを始めて聞く人にトークショーとか講演とかしても、すごい苦しいのを我慢して息をと止めている変な人っていうストイックなイメージがあるんです。でも本当はそうじゃなくて、約3分間息が止めれるとしたら、3分間ヒクヒク息しているわけじゃないんですよ。2分間くらいまで苦しくないんですよ。その苦しくない時間をいかに伸ばしていくか、というのがフリーダイビングのトレーニングで、苦しくない深さとか、苦しくない距離とか、そのために息を止めるコツっていうのがいろいろあるんですね。体づくりとかメンタルとか。そういうのをお伝えするんです。そうすると苦しくなくて気持ちいい時間を水の中で過ごすっていうのが陸上ではもう絶対体験できない非日常体験なんですよね。それを体験した人は、リフレッシュもできたりとか、水の中で自分がしたいこと、ダイビングやイルカもそうなんだけど、やりたいことができて夢がかなったりするので、そこはもうちょっと誤解をといていろんな人に楽しみを差し上げたい。その中で競技に興味を持つ人が出てくればいいかな、と思うんですけど。
プロでもダメなんだ、という気づきから
無理しないことを普通だと思って欲しい。
岡本さんはいま競技周りも実践されながら、一緒にオフィスポも実際されています。呼吸の仕方とか、日常的にすごく浅い呼吸をビジネスパーソンがやってるときに、きっちりと腹からしっかりと呼吸するといったような。呼吸を通じて自分を感じて欲しい、ということをやってらっしゃいますよね?
岡本
わたしフリーダビングを始めてからすごい肺活量がふえて、倍近く増えたんですよね。呼吸年齢も病院で測ったら18歳だったんですね。
山田
呼吸年齢ってあるんですね!
岡本
それも呼吸器を若返りたいからやるとかじゃなくて結果的なものなんですけど、ちゃんと息を吸う、ちゃんと息を吐くっていうのを丁寧にやってそれによってメンタルコントロールができるようになるんです。呼吸で気持ちを切り替えられるっていうテクニックを知ると、逆に今自分の状況がどうかってのがわかるんですよ。いま焦ってるわ、とか、そのときに呼吸を変えてあげてリフレッシュしてちょっとその上がってる気持ちを落として冷静になるっていうのを陸上でも使ってるんですけどね。
山田
落ち着け落ち着け、みたいな?
岡本
そう、頭の中で落ち着けって思っても無理なんですよ。でもゆーっくり息を吐いて何回か、そうしてると、ドキドキがおさまってきて、上がってる気持ちが地に足つくように収まってくる。そこで冷静な判断ができるようになってるんですよ。なのでフリーダイビングやっててすごいよかったな、って。
山田
そうですよね、呼吸は大事ですよねー。
岡本
山って呼吸は?すごい強いんじゃないですか?
山田
ほんとの高所にたって15年たってるから、一年に一回6000mあがってて、日本は3000m、4000m上がってて、比較的呼吸は意識しますよね。上にあがると高山症状出始めるので。これはもうなんどやっても出るので。もちろん慣れてきたら出なくなるんですけど、冬の間は高い所やっぱり行かないのでそれで体も戻っちゃって。それでもお客さんと違うのは、なったときの対処法を知ってる。あ、もうこの症状のいつものいつものみたいな。これ水飲まなきゃダメとか、これ深呼吸しなきゃダメ、みたいのがわかってて、キリマンジャロは毎年行くんですけど、この頭痛はいつものやつだ、みたいな。お客さん喜ぶんですけどね。ガイドが苦しんでると。山田さんでも苦しいんだ、みたいなのは。みなさんの安心のために痛いって言ってるわけじゃないんだけどみたいな(笑)
岡本
ガイドでも自分たちと同じ人間なんだ、っていうことがわかると安心するのかな?(笑)
山田
僕でもなるというか、ガイドでもなるっていうことに対してお客様はそのあとの数日に対しての対処がしっかりするんです。そこは隠さずに全部オープンに自分のコンディションをいうし、お客様も高所になってくると、たとえば6000mで全然なんともなかったですって以上状況だったら、実は本当になんともなかったら病院行かないといけない世界ですし(笑)キリマンジャロを登った6日間の中で、自分は大丈夫と思いたいみたいな気持ちで殻に被っちゃう人がいるんですね。それよりはさらけ出して、今はここが大丈夫じゃないっていうことを自覚することが大事で、それに対してどう対処しましょうか、っていうことを前向きに考えなきゃいけない。頭痛でも吐き気でも気分悪いでも体が動きにくいでもなんでもいいから早めに吐き出しましょう、早めに言える環境作りましょう、昨日は眠れなかったって言えるようになりましょうって常に言っています。眠れたんだって暗示かけるのはやめましょうこんなところで眠れるわけないんだから。そのあとにいかに登頂するかを考えましょうっていう話をするんですよね。
岡本
すばらしい。そのちゃんと自分の体の異変に気付いているけど言い出せないっていう人が多いんですか?
山田
多いです。っていうのは、ガイドさんに言ったら降ろされちゃうんじゃないかって。高山いく際に処方されるアセタゾラミドっていう利尿剤をよく飲むと手足のしびれが起こるんですよ。キリマンジャロの登山の前日の夜から飲み始めて、2日間、3日間手足がしびれてるんだけど、このしびれのことを言い出したらなんかすごいひどい高山病が起こってるんじゃないかって言えなかったってお客さんがすごいいるんです。そもそもそれが普通のことなんだ、っていうとみんな安心して登れるんですけど、言われてないでしびれが出はじめると、これは言ったら絶対降りろって言われるとか、みんなに迷惑かけちゃうからとかで言い出せないんです。むしろ、そうやって思い悩んでること自体がすごくメンタルに悪いんです。いかに前向きになれるかっていうのがごい大事で、それは2ヶ月の登山でも1週間のキリマンジャロでもそうだし、1泊2日でも同じで、ふさぎこんだら何にもいいことなくて解決することなくて、いかに前向きになるために自分のコンディションを知れるか。自分が大丈夫って暗示かけることじゃなくて、自分の立ち位置分かった上で前向きになれることが大事で。そういう空気を作り出すのがガイドの仕事だったりします。
言葉化する術によって、
様々なことが解決する。
岡本
わたしやって自分でよかったな、って思うのは、息を止めてるとやがて苦しくなるじゃないですか。それを苦しいっていうワードってネガティブでしょ。ピクピクしてきたとか、苦しいってワードを使わないでこうなってきた、そろそろ上がりどころだなとか、血圧が変わってきたなとかそういう風に分析して言葉にできるようになったら怖くなくなったんですよ。いいとか悪いとか色をつけないでたんたんと自分の起きたことに対して言葉に表していくっていう練習をしていくうちにメンタルもそうなってきて。今のは嫉妬だなとか、今のはちょっと私いらっとしたのはこのせいだなとか、自分のプライドかもな、とか。そうやってると落ち着くんですよね。フリーダイビングやるまでは、漠然としてたんですよ。生徒さんも同じで、女性はなんとなく怖いものとかなんとなくよかったらいいんだけどやなものはやだって一つの袋にまとめてしまう癖があるんですよね。それを怖いってことば使わないで、苦しいって言葉使わないで、何が浮上したか教えて?言葉にしてごらん、っていうと、息を吐きたくなった、とかって言われると、それは二酸化炭素が血中の中に増えて、息をしようとするただの反射なんだよ、って教えてあげるんです。息吐きたくなったらあがればいいから、それまで寝てなあさい、っていうとすごい息が延びるんですよ。安心して。そのいろんな思い込みとか色をつけないで言葉にする、観察する癖ってのがついたのは、陸上でも役になっていて、生徒さんもそれで気づくとこが多いみたいです。
山田
なるほど、、、実はただの体の変化なんですよね。それを言葉化するという・・・
岡本
やっぱ人によって違うんですよ。苦しいっていうと、みんな一緒な現象が起きるような感じするけど一人一人息を止めて苦しいのワードを使わずに説明してもらうとみんな違うんですよ。だから、いかに漠然と袋に入れてたかってのがわかるんですけど。面白いですよね。
山田
高所もやっぱりどんどん変化していきますよ。お客様がそれこそ高いところに立った時に、ただ苦しい、ただ痛いじゃなくてもうちょっと具体的に行ってもらわないと。僕の場合はネガティブ・ポジティブってこと以上に、ガイドだからもう少し正確に知りたいっていうところですけど、吐き出すと楽になる部分っていうのがあるみたいですね。お客さんも。
岡本
やっぱり言い出しにくい、観察とは別のレイヤーの言い出しにくいっていうレイヤーは、逆に分析してみようっていう雰囲気にすると、言い出しやすい雰囲気になりますよね。
山田
周りもそうだったんだ、っていう安心感がね。
岡本
あとが違いが面白いね、とかね。
登山ガイドとして、
みんなが応援できるコミュニティをつくりたい。
山田
自分がアスリートとして登山をやっていた立場と、いまお客さんがどっかの山登りたいといってチャレンジしていくのともちろん登ろうとしている山は違えど、本人としては同じなんですよね。世界記録を狙うような、世界の有名な山を狙うのが尊くて、極端な話80代、90代の方が一生のうち最後に富士山に一回だけ登りたいみたいなチャレンジ、どっちが尊いとかどっちがすごいというかいうのはなくて、そういうチャレンジをする人たちのサポートをちょっとでもしたいと思っていて。
いまガイドも20年近くやってるんですけど、最初60代だったお客さんがもうそろそろ80代になって。その人たちが最後にここだけ登りたいんで、あと5年登れるかわかんないけど、やっぱり登りたいんですっていう気持ちというか、すっごいな、って思っていて。こう人たちから僕が学ぶこともすごい多いし、そういう人のチャレンジを是非ともサポートしたいなと思っていて、そういう人たちを応援するコミュニティつくりたいな、って思ってるんです。
そういう人たちを僕がマンツーマンで応援するのは簡単だけど、そういう人たちをみんなが応援するコミュニティをつくるっていうのはまた全然違う側面になってくるんで。そういう人たち見て、また全然違う若い人たち見て。それが15人とか20人とかが一緒になって、一丸となって登って、登った後みんなで酒飲んで、っていうのが山の楽しみですね。
岡本
そういう体験を何回も重ねてると、自分を観察してそれを伝えるっていうところが結構お客さんも上手になってくるんじゃないですか?
山田
はい。やっぱり人間信頼関係がないと伝えられないっていう殻の部分がありますし、自分自身との対話がうまくないと自分自身も言語化できないっていうのもありますし。お客様自身がガイドとの信頼関係がないから言おうとしないのか、自分自身でなんとなく違和感あるんだけど上手く伝えられないのと。1回、2回の登山ガイドじゃなくって、長くおつきあいがあると、お客様も言いやすいし、僕らも前の話からずーっと積み重ねのストーリーができるんで対処しやすいんです。
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4月のアストークは、共に極限へと立ち向かうお二人から自分との付き合い方についてのヒントをたくさんいただいた。お二人は初めてにも関わらず、共通点をたくさん見出すと共に自身が持つ価値観と照らし合わせ、今後の活動に向けてさらなるヒントとして吸収されていた。これからのお二人は、競技者、また指導者としてさらなる活躍が期待される。読者の皆様にも、今後も二人の活躍をぜひとも注目していただきたい。
撮影協力:株式会社大丸松坂屋百貨店 未来定番研究所